2007.03.30
[映画]「パラダイス・ナウ」を観て
さんざん紹介してきた 「パラダイス・ナウ」 を東京で観てきたので、何かを書こうと思うのだが、言葉がなかなか出てこない。というか、沈黙がこの映画を観たあと、支配していると言ってもいい。
「パラダイス・ナウ」はパレスチナや、その占領を描いた映画ではなく──もちろん、それは無関係ではないのだが──、自爆攻撃に赴こうとしている青年たちを描いたものだ。けっして、私たちが目にすることのない、ひとりの人間が自爆攻撃に赴く過程を、抑制されたトーンで描写していく。
じりじりと自爆という行為に近づいていく人間が、淡々と描きだされているのに、私たちは刻々と迫ってくるものの予感のなかで、青年たちの姿をことばをじっと息をひそめて追ってしまう。
ストーリーに巻き込まれ、まばたきを忘れたかのように映画の内部に入りこむようにこの映画は作られている。

ところが私の脳裏に焼きついているものといえば、オリーブの木々であり、ナブルスの白い石の町並みであり、それとは対照的に近代的なビルが立ち並ぶテルアビブの様子であり、主人公の青年の瞳の色なのだ。
自爆攻撃がいいとか、悪いとか、そのような価値判断はこの映画からは出てこない。ただ、そこに生身の人間がいることを強烈に突きつけられる。自爆によって、自殺と殺人を同時に行う生身の人間が。
その人間の瞳があまりに深い色をたたえていて、私は金縛りに合ったように瞳のなかに何があったのかと考え続ける。その答えはでないと言った方がいいのだが、あの瞳にもう一度出会いたいと思い続けている。
のっぺらぼうな「テロリスト」という仮面を脱いだところにある、自爆者の実存をつきつけてくる映画。余韻は時間が経っても薄れない。彼らがいたオリーブ林や街を見おろす丘が目の前に浮かんでいる。
私は相変わらず自爆攻撃に反対する立場であるし、それは変わらないのだが、そのことで映画への評価が影響されるわけではない。そういう意味で、ストーリーに巻き込みつつも、映画は過度に感情移入をさせるのではなく、じつに淡々と距離をおいて物事を映しだしているといってもいい。物語性を求める人にはあまり向かない映画かもしれない。
ところで、映画の公式パンフレットだけはいただけなかったことを記しておかないとならない。アサド監督と足立正生氏の対談は、映画じたいをねじ曲げて観させてしまうような内容になっていたと思う。このような余分な情報は映画を観る上で悪い影響しか与えないと思ったが……。何か大きな勘違いをしているとしか思えない構成だった。
*まだ東京だけでの公開で観ていない人が多いということを考えるとネタバレはないほうが良いと思い、このような内容しか書けませんでした。東京以外の場所でも公開されることを期待します。
【公式サイト】 http://www.uplink.co.jp/paradisenow/ (注意!音がでます)
■ コメント&トラックバック (6 件)
悪しき商業主義とロマンチシズムと
コメント by :とんがりコーン
パレスチナと映画、と来れば、すぐに足立正生だ、重信メイだ、四方田犬彦だ、という人選をしてしまうところに、業界特有のあさはかさがあるような気がします。それぞれの映画の重要性を深く考えもせずに、話題性だけで飛びついているから、結局パンフにも、安易な人物ばかりが並ぶのでしょうね。
そう言えば、いきなり「バン! バン、バン!!」っていう銃撃音の出るサイトも、いかにも品のないことよ、、、
2007.04.03 (Tue) 15:39
公式パンフ
コメント by :ビー
>レイランダーさん、
四方田氏との対談も、足立氏との対談も、違和感を感じるところは、結局、数ページで簡単にまとめられるようなことではない事柄をあっさり口でしゃべっているようになっているからではないか?と思いました。「アサド監督と考えるパレスチナ」とかいう本でも作るなら、べつでしょうに。何も考えずに単なるコンテンツとして入れてみたというのがパンフレットなんでしょうね。
>とんがりコーンさん、
すぐ上のトラックバックを入れてくださった方も、あのサイトで鳴る音(銃声)の趣味の悪さを指摘していました。おっしゃるように、単なる話題性だけで集めてみたという感がぬぐえないです。にわか作りなんですよね。私だったら、最低ナブルスの地図は入れたいなぁ。どのように検問所で包囲されているかなどがわかるようにして──。映画にたいして、せっかく公開するのだから、もっと誠実なつくりにしてほしかったと思います。
2007.04.04 (Wed) 02:19
映画「パラダイス・ナウ」
コメント by :じゃりんこ
私は、パンフレット結構参考になるなぁ、と思ってしまいました(^^;)。
四方田さんについては、ムハンマド・バクリ氏が見えたとき、シンポジウムで、通訳の女性に対してすごく手荒い扱いをされて、ちょっとそれはないんじゃないかなぁと思ったことがありました。お書きになったものを読んだこともないので、それだけではなんともいえませんが(--;)。
トラックバック from:じゃりんこのコーヒータイム
2007.04.08 (Sun) 22:38



パラダイス・ナウ
コメント by :レイランダー
パンフのあの対談については全く同感です。
映画とは別に「パレスチナ闘争の過去と今」みたいなテーマでああいう話が出てくる分には、それがたとえアサド監督の口から出た言葉だとしても、「ああそういう思いもあるんだな」とか「そういう政治的認識があるんだ」とか受け取れます。本人も言うように、監督にとって足立正生氏は英雄で、その英雄を前に興奮して、少し暴走気味のことまでしゃべっている。その内容の良し悪しはともかく、あの映画のパンフの中にそれを載せなきゃならない理由はない。
ともあれ彼は政治家ではなく、軍事評論家でもなく、映画監督なのだから、大事なことは映画がちゃんと語ってくれている、そう理解はしながらも、正直言ってせっかくの映画の感動にケチをつけられたような気分になりました。
パンフではもう一つ、四方田犬彦氏が特攻隊との関連にこだわっている(かに見える?)部分も違和感がありました。僕はそもそも戦時中の日本の「特攻」とパレスチナ人による自爆攻撃とは似て非なるもの、重なる部分が多々ありながら重大な断絶があるもの、という認識です。もちろん氏がどちらか、または両者に行為の正当性を与える文脈でそれを主張しているとは思いませんが・・・やはりパンフでわざわざ取り上げる話ではないのでは、と思いました。
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2007.03.30 (Fri) 12:32