2006.12.03

イスラエル元軍司令官、NZで逮捕を免れる

ニュージーランドで地裁の要求した戦争犯罪容疑者の逮捕を司法長官が介入し、覆される事件が起きた。ここ2年ほどの間に、パレスチナ人が戦争犯罪人として提訴したモファズ元国防相(現交通相)、そして ドロン・アルモグ将軍(元ガザ地区のイスラエル軍総司令官)が同じように逮捕を免れた ことがある。

ニュージーランドを訪問中の元イスラエル軍司令官、モシェ・ヤアロンに対し、オークランド地裁が戦犯容疑で逮捕状が発行したのは11月27日のこと。ヤアロンは「カナの大虐殺者」として知られており、昨年12月にはニューヨークで民事訴訟が起きている。96年にイスラエル軍は、レバノン南部、カナのUNFIL(国連レバノン暫定隊)本部に対する攻撃を行い、そこに避難していた100人以上の難民を虐殺した。これを指揮したのが、当時、諜報部長官を務めいたヤアロンだと言われている。ヤアロンはその後、2002年7月9日から2005年6月1日までイスラエル軍の最高司令官を務め,パレスチナ占領地において、数えきれない人権侵害と戦争犯罪を犯した疑いがもたれている。

ユダヤ民族基金(JNF)*1の資金集めのためにニュージーランドを訪問していたヤアロンに対する容疑は、2002年7月22日にイスラエル軍がガザの密集地に対し行った空爆*2への関与で,ジュネーブ条約第4条違反の疑い。民間人への攻撃を禁止するジュネーブ条約に調印するニュージーランドでは、条約違反は刑法犯罪になるため、オークランド地裁は警察に逮捕を要請したのだ。

地裁に訴えを起こしたのは、パレスチナ人権運動家のジャンフリー・ワキムで、地裁はこの訴えに『十分な理由』があると判断し、逮捕令状の発行を決めた。しかし、警察はヤアロンの逮捕には向かわず、ヤアロンの監視を続ける一方で、法務次官にアドバイスを求めた。

11月28日、次官などからアドバイスを受けたマイケル・カレン法務長官は、地裁の決定を覆し、逮捕状の発行を取り消す決定を下した。「証拠が不十分であり、立件が難しい」というのがその理由。「他の国でも逮捕状が出ておらず、戦争犯罪を裁く国際司法裁判所も、この件を取り上げていない」とも付け加えている。

カレンはヘレン・クラーク政権の与党労働党の副党首であり、法務長官ポストのほか,副首相。蔵相、高等教育相、院内総務を兼任する実力者だ。もともとは経済と社会保障政策が専門で、法律家ではない。法律の経験がない人間が法務長官に任命されることはそれまでに1度しかなく,2005年に任命された時には論議を呼んだ。そういう背景を考えると、今回の判断も自ら法律的な判断を下したのではなく,イスラエルに対する配慮なのか、勝ち目のない闘いを避けるためなのか、政治的な判断である可能性が強い。法務長官はこの決定にあたり、イスラエル政府とのあいだで一切コンタクトがなかったと発言している。

この介入をめぐり、国内で賛否両論が飛び交っているが、ニュージーランド政府の国際的な評判を下げることになることは間違いない。逮捕が取り下げられたヤアロン自身は、ニュージーランドのメディアによれば,すでに出国したようだが、3日付けのハアレツ紙は「私は逃げない」というヤアロンのコメントを掲載、いまだ、ニュージーランドにいることをにおわせている。

この知らせにパレスチナ人権センター*3の代理を務めるロンドンの事務弁護士事務所、ヒックマン&ローズは「パレスチナの犠牲者たちは失望している。ヤアロンは法廷に示された証拠に基づき、逮捕され、起訴されるなり、引渡されるなり、適当な措置がとられるべきだった」と声明を発表した。

参考サイト:
Lecturer Backs Cullen's Ya'alon Decision

Cullen quashes arrest warrant for Israeli general

Cullen under attack for quashing warrant for Israeli

General's arrest warrant quashed

PCHR:Former Israeli Chief Of Staff Moshe Ya'alon spared arrest in New Zealand

PCHR: New Zealand Attorney General stays prosecution of Israeli war crimes suspect, enabling him to evade international justice

*1…ユダヤ民族基金(ケレン・カイエメット)
1901年設立の土地開発基金。イスラエルの土地の大部分を所有する。
イスラエル建国以前からパレスチナの土地を購入し,開発を行ってきた。建国後はイスラエル国家の一機関であると同時に海外に離散するユダヤ人の団体、世界シオニスト機構の一部でもある。

*2…2002年7月22日の深夜、イスラエル軍は「暗殺政策」に基づき、F16機から1トン爆弾をガザの人口密集地に落とした。ハマスの指揮官、サラ・シハーダを狙ったとされているが、世界でも有数な過密地区に落とされた爆弾は近隣の人々を殺傷した。この爆撃で民間人15人以上が殺され、150人以上が怪我を負った。オークランド地裁への訴えを起こした原告の一人、ラエド・マタルは妻や3人の子供を含む7人の家族を失った。ヤアロンはこの攻撃に中心的な役割を果たした疑いがもたれており、地裁に提出された書類によれば、自らこの作戦に関与したことを認めている。

*3…パレスチナ人権センター(PCHR)は、世界各地の弁護士事務所と協力し、イスラエルの戦争犯罪容疑者の告発を行っている。イスラエルの司法当局は政府が採る「暗殺政策」の合法性について判断することを拒否し、その政策に基づく個々の「暗殺」についても捜査を拒否しているからだ。PCHRによれば、イスラエル政府の「暗殺政策」「先制攻撃政策」のおかげで、2000年9月から2006年9月の間に、法によらない処罰で少なくとも376人が殺され、さらに少なくとも209人の民間人が巻き添えになって殺された。


英国に続いて、ニュージーランドでもまた…。イスラエルの戦争犯罪を裁きの場所に持ち出そうというパレスチナ人たちの努力はまたしてもとん挫させられてしまった。「法的」な理由というよりも、「政治力学」の中でもみ消されているという印象が強い。戦争犯罪が法の下で裁かれる日が来るとき、パレスチナとイスラエルの紛争も違う段階に至るはずなのだが、それはまだ実現していない。

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