2006.04.08

ナブルス通信4.9 「イスラエルのなかのパレスチナ人を隠す米紙」

新しいナブルス通信──この形でアップします──

○○○ナブルス通信 2006.4.9号○○○
「イスラエルのなかのパレスチナ人を隠す米紙」
http://www.onweb.to/palestine/
           Information on Palestine ────────────────────────────

◇contents◇ 

◇パレスチナ系イスラエル人への差別を隠蔽、ニューヨーク・タイムズ紙 パトリック・オコナー

◇Information リック・タナカ新刊!『人工社会』

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イスラエル社会のなかで「ユダヤ人のためだけの国家」を阻害しているのが、48年以降、イスラエルに居座り続けたパレスチナ人です。人口の2割を占めるパレスチナ人をイスラエルから閉め出そうという主張の政党が先の選挙で躍進するなど、不穏な動きが高まっています。

しかし、絶対に忘れてならないのはこの「イスラエル・アラブ」とも呼ばれる人々が、イスラエルに降って湧いたのではなく、ずっとそこに生き続けてきた人々だということです。

米国のメディアがこのイスラエルのなかの「異質な人々」をどう扱っているかレポートした文章を届けます。[ナブルス通信]

パレスチナ系イスラエル人への差別を隠蔽、ニューヨーク・タイムズ紙

パトリック・オコナー/ Patrick O'Connor

The New York Times Covers Up Discrimination Against Palestinian Citizens of Israel

http://www.dissidentvoice.org

2006年3月29日

昨日行われたイスラエル選挙の大きな展開のひとつは、アヴィグドール・リーベルマン率いるイスラエル・ベイテヌ党が第4勢力へ急上昇したことだ*1。

イスラエル・ベイテヌ党は、イスラエル国内のパレスチナ人の町をパレスチナ自治政府の管轄に移すことを提唱している。それは、何十万人ものパレスチナ系イスラエル人から国籍をはく奪することだ。この政策の人気は、先週発表された世論調査の結果とも符合する。それによれば、ユダヤ系イスラエル人の68パーセントがパレスチナ系イスラエル人と同じアパートに住むことを拒否し、40パーセントがパレスチナ系市民の移住を国が促進するべきだと答えている[1]。しかし、主流メディアのイスラエルのとりあげ方が片寄っている米国では、これほどの露骨な差別にも、市民はたぶん驚きはしないだろう。

イスラエルが表向きにはリベラルな民主主義を装いながら、パレスチナ人を抑制するという広範な戦略をとっているなかで、人口の20%を数えるほどの二級市民の取扱い、つまりパレスチナ系市民の存在そのものについて曖昧にしておくことは、[偽装の]重要な構成要素となっている。

ニューヨーク・タイムズを先頭に、米国主流メディアはこの戦略に加担している。米国メディアはパレスチナ人によるテロの報道に集中し、イスラエルの語る物語を強調し、その一方で、イスラエルの占領、パレスチナ人の土地の収奪の核心、イスラエルによる国家テロ、パレスチナ系イスラエル人や占領地、そして国外に離散したパレスチナ人に向けられる組織的な差別などの経験が報道されることはほとんどない。

3月、ニューヨーク・タイムズ、ロサンゼルス・タイムズとワシントン・ポストという米国でもっとも信頼され幅広く読まれる三つの新聞に、「イスラエル・アラブ」とイスラエルの選挙に関する三つの記事が載った。

これは米国のメディアがいかに、イスラエルの物語に加担しているのか、それを示すひとつの例だった。

イスラエルは長年の「分断統治」策のひとつの道具として、パレスチナ系イスラエル人という表現ではなく、「イスラエル・アラブ」という呼び方を使っている。これにはイスラエル国内に暮らすパレスチナ人が、占領地に暮らすパレスチナ人との間に血縁があり、歴史や文化のつながりのあることを隠す意図も含まれている。三つの記事はどれも「イスラエル・アラブ」という言葉について疑問を差し挟むこともなく、相当な非ユダヤ人を内部に抱えるユダヤ人国家が民主的でありうるのか、住民に平等な権利を約束できるのかどうか、問うこともしない。三つの記事は差別を取り上げているというのに、多数のパレスチナ系市民から市民権をはく奪するイスラエル・ベイテヌ党の政策についてはまったく触れていない。

このようにパレスチナ系イスラエル人が無視されることは、私が最近やった調査の結果とも符合している。それは、最近五年間、米国の五大新聞に掲載されたパレスチナ人とイスラエル人の手による論説を研究したもので[2]、五つの新聞に、ユダヤ系イスラエル人の手による論説は201、掲載されていたが、イスラエル在住、パレスチナ系イスラエル人によるものはたったひとつしか存在しなかった。

しかし、ニューヨーク・タイムズは一般に米国で最も影響力のある新聞であると目されてはいるが、パレスチナ系市民へのイスラエルが発する差別的な作り話を鵜呑みにする点では、ワシントン・ポストやLAタイムズより、ずっとひどい。

これも私の論説ページ研究調査の結果と符号する。2000-05年にかけ、それぞれの新聞に載ったイスラエル人による論説とパレスチナ人による論説の差は、ニューヨーク・タイムズが3.4倍、LAタイムズは2.3倍、そして、ワシントン・ポストは1.4倍だった。

3月21日付けのニューヨーク・タイムズ紙に掲載された「イスラエル・アラブ:政治家はあまり沈黙していない少数派に言い寄る」という記事で、ディーナ・クラフトは「パレスチナ人」と「イスラエル・アラブ」を、まったく別なもののように扱い続けた。パレスチナ系イスラエル人と占領地に暮らすパレスチナ人との間に家族のつながりがあり、アイデンティティや歴史、文化を共有することは少しも触れられていない。クラフトの記事によれば、パレスチナ系イスラエル人は、占領地に暮らすパレスチナ人住民とはまったく別なものであり、「680万人のイスラエル人口のほぼ20パーセントは、アラブ系(西岸、東エルサレムやガザ地区のパレスチナ人とは異なるグループ)」なのだ[3]。

対照的に、3月25日付けのLAタイムズの記事「イスラエル・アラブは投票にほとんど価値を見い出さない」[4]において、リポーターのローラ・キングは

「イスラエル・アラブは西岸やガザのパレスチナ人同胞との連帯を強めるべきか、それとも、イスラエル国内で自身のアイデンティティを強化するべきか、大きなジレンマを抱えている」

というように、パレスチナ人を「同胞」と呼んだ。

ワシントン・ポストのスコット・ウィルソンは3月5日付けの記事、「イスラエル・アラブはハマス勝利に教訓を見い出す」[5]で貴重な情報を提供している。

「1948年の独立戦争時、自分の村に居残ることを決めたアラブ人は、ユダヤ国家の人口600万人のおよそ20パーセントを占めている。 イスラエルの治安当局は、1949年の休戦ラインから北のガリラヤ地域にまで連なる町に集中するこれらの人々をパレスチナの第五列ではないか、と疑いの目で見た」 。

NYタイムズのクラフトは「イスラエル・アラブ」を「パレスチナ人」から完璧に切り離そうとするが、記事が「バーカ・アル・ガルビーヤ」発になっていることを勘定にいれると、それは厚顔無恥というものだ。バーカ・アル・ガルビーヤはグリーン・ライン[イスラエルとパレスチナのボーダー]のすぐ西側、イスラエル内のパレスチナ人の町で、占領下のパレスチナ人が組織的に分断されるさまを劇的に示す町のひとつだ。 この町はグリーンラインを越えた東側、西岸地区のパレスチナ人の町、バーカ・アル・シャルキーヤとつながっている。バーカ・アル・ガルビーヤとアル・シャルキーヤは、アラビア語でそれぞれ、「西」と「東」を意味しており、これらの町はグリーンラインに隔てられてはいるが、バーカというひとつの町であり、それが高さ25フィートのコンクリートの壁で切り裂かれ、家族や友人が隔てられているのだ。同じ家の出身でもバーカ・アル・ガルビーヤに住んでいればイスラエル市民の「イスラエル・アラブ」と呼ばれ、バーカ・アル・シャルキーヤに暮らしていればイスラエルの軍事占領下にある「パレスチナ人」にされるのだ。

イスラエルで行われるパレスチナ人差別の表し方を見ると、他の2つの新聞とは対照的に、ニューヨーク・タイムズはあいまいだ。 LAタイムズの記事でローラ・キングはこう書いている。

「ユダヤ人のマジョリティに比べ、イスラエル・アラブの失業と貧困は深刻である。イスラエル・アラブは、たいてい、軍務につくことがない*2。若いイスラエル人は兵役を通して、雇用機会を広げるもので、地方への税金の配分も、アラブ人の市町村ヘはユダヤの自治体に比べると、かなり少ない*3。そして、先週の世論調査によれば、イスラエル・ユダヤ人の大多数がアラブ系市民を国家の安全に対する脅威だと考えている」。

スコット・ウィルソンによるワシントン・ポストの記事もこれらの点を繰り返し、さらに土地所有における差別にも触れている。ウィルソンは、1956年(イスラエルのパレスチナ人は1948〜66年の間、軍事支配下に置かれていた) に49人のパレスチナ系市民がイスラエル警察と軍隊の手で殺害されたこと、2000年には13人のパレスチナ系市民が同じように殺されたことにも言及する。

これらの差別をワシントン・ポストとLAタイムズの記事は見るから客観的な調子で事実として報道しているが、 ニューヨーク・タイムズの記事では、ひとりのパレスチナ系イスラエル人の意見が出ているに過ぎない。『市民の平等促進協会(Association for the Advancement of Civic Equality)の共同代表、アリ・ハイデルは、「経済、教育や雇用に関し、人々は継続的で計画的な差別の下で暮らしている」と発言しています。』

アメリカの読者の大部分は、対立する意見を「両側」から聞くことに慣れているので、NYタイムズのクラフトの「客観的な」書き方に同意しがちだが、クラフトは「中東の兄弟たちと比べ、イスラエル・アラブはどこよりも高い教育、医療、生活水準を享受しています。それなのに、彼らは、自分達よりも恵まれることの多いユダヤ系イスラエル人と比較するのです」とまで言っている。

クラフトの意見は、パレスチナ系イスラエル人の権利について、驚くほど差別的な理解が許容されていることの反映だ。つまり、同じ「民主主義」国家に暮らしていても、民族や宗教の違う人々の権利は、まず、民族的、宗教的に似通った国外の人々と比較されるものであり、同じ国に暮らす特権的な大多数とくらべることなどは付け足しなのだ。NYタイムズ紙は、民族や宗教の違いによる人権の差別を、もうひとつの自称民主国家でも支持するのだろうか?

3つの記事は、イスラエルがアラブ/イスラームによるテロに苛まれる自由で民主的な国である、そういう虚構の作り話を維持することに米国主流メディアが共同で加担していることを例証している。

その作り話を維持するためには、1947〜48年にイスラエルが70万人以上のパレスチナ人を家から追い払い、作られたのが現在のイスラエルであるという歴史の事実をすっかり覆わなくてはならない。現在、イスラエルに残るパレスチナ人は、占領地や国外に離散したパレスチナ人と同根であり、同じ文化を共有するとことを否定しなければならない。

その過程で、イスラエルがパレスチナ系イスラエル人を含む全てのパレスチナ人に対し、パレスチナ人がイスラム教徒やキリスト教徒であり、ユダヤ教徒ではないという理由だけで行う組織的な差別が取り繕われ、いったい、ユダヤ人国家が非ユダヤ系市民に対し、平等で民主的な権利を与えうるのかという問題の核心は避けられてしまう。

ワシントン・ポスト、ロサンゼルス・タイムズの記事では、ていねいに読めば、これまでのイスラエルの作り話がどこかおかしいと気付くだろう。米国を記録する代表紙のニューヨーク・タイムズは、イスラエルのパレスチナ系市民に対する差別に満ちた考え方をそのまま飲み込み、叩き売るする方を選んだ。


*パトリック・オコナーは 国際連帯運動(ISM)パレスチナ・メディア・ウォッチ の活動家

(パトリック・オコナーについては 「非暴力であろうと、占領への反対は許さない」 強制送還への道 にパレスチナとの関わりが書かれている。文章は 米国メディアと壁:トマス・フリードマンと「シックスティ・ミニッツ」 で。

翻訳:リック・タナカ

原文:
http://www.dissidentvoice.org/Mar06/OConnor29.htm

http://electronicintifada.net/v2/article4600.shtml

(段落はやや改変してあります)

[原註]:

[1] Eli Ashkenazi and Jack Khoury, "Poll: 68% of Jews would refuse tolive in same building as an Arab," (世論調査:ユダヤ人の68%は、アラブ人と同じ建物に住むことを拒否)2006年3月22日付けハアレツ紙。

(+以下のリンクは原文を辿ってみてください)

[2] Patrick O'Connor, "Israeli and Palestinian voices on the US op-edpages A Palestine Media Watch Report," (米国紙の論説ページにおけるイスラエル人とパレスチナ人の声。メディア・ウォッチ・レポート)、2006年2月28日 。

[3] "Politicians Court a Not-So-Silent Minority: Israeli Arabs," (イスラエル・アラブ:政治家はあまり沈黙しない少数派に言い寄る)、2006年3月21日付けニュー・ヨーク・タイムズ。

[4] Laura King, "Israeli Arabs Feel Little Stake in Vote," (イスラエル・アラブは投票にほとんど価値を見い出さない)、 2006年3月25日付けロサンゼルス・タイムズ。

[5] Scott Wilson, "Israeli Arabs Reflect on Hamas Win," (イスラエル・アラブはハマス勝利に教訓を見い出す)、2006年3月5日付けワシントン・ポスト。

[編集者註]:

[*1]…… 「イスラエル総選挙を終えて--消えた政治的争点」 (パレスチナ情報センター、早尾貴紀)に詳しい[前回の通信内容]

[*2]……ドルーズやベドウィンは、別のカテゴリーとして兵役を課されている。参考: 「こんな国とはオサラバだ!」

[*3]……一般にイスラエルでの地方行政区の予算は、入植地3:ユダヤ人地域2:アラブ系(パレスチナ人)地域1という配分になっていると言われている。アラブの町や村は行政サービスがまともに行われず、上下水道、ゴミ回収システムなどが置き去りにされている。


リック・タナカさんの新刊 『人工社会』エコビレッジを訪ね歩いて

いつもナブルス通信の翻訳をやってくださっているリック・タナカさんが『オーストラリア 楽農パラダイス』(東京書籍)に続いて新刊を発表されました。

『人工社会』リック・タナカのカバー画像
『人工社会』by.リック・タナカ(幻冬社刊)
ISBN4-344-01128-7

「人工社会」は「インテンショナル・コミュニティ」の訳。オーストラリアのなかのコハウジングやエコビレッジをリックさんが訪ね歩いたレポートになっている。

「どんなふうに生きていきたいのか」。消えつつある石油資源の前で、溶解するコミュニティが広がる中で、「住」を柱に、今後わたしたちの生きていける社会を考える。……と言っても、前作同様、旅するパンク魂リックさんの足取りや視線がときに軽やかで、ときに重々しく、私たちがあまり知らないオーストラリアを見せてくれる。

週3回はコモンハウス(共同の場所)で集まってご飯を食べるのは良さそうだ……(自分がご飯を作る回数が減るし)とか、入会地(イスラームでいうワクフみたいなもの)は欲しいなとか、思いながら、メルボルンの古くさいカフェに惹かれたりもする。

なぞのリックさんを知りたい方も、ぜひ手にとってみてください。

「石油を無計画に使い続けてもう先が見え始めた。それが「どこか別な場所・別な暮らし」を求める要因の一つとなる。

化石燃料の枯渇を前に永続可能な別天地はあるのか。エコロジカルな農業を学び楽農生活にも親しんだ著者が、オーストラリアの新共存社会、永続する文化の実験と実態を鮮やかにリポートする。」

(幻冬社による紹介文より)

アマゾンのページ(書評あり)

リックさんのブログ「南十字星通信」は http://www.the-commons.jp/rick/ (登録制。無料)。

[だいぶとパレスチナのことで、共同作業をしてきたリックさんの新しい本が出て、私が知らないことをたくさん教えてくれるというだけでも嬉しいもんです]

前作の感想文byビー: 庭から世界を変えていく 『オーストラリア楽農パラダイス』 (新刊の感想文はまた改めて書きます)

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