2005.09.18

英国、イスラエルの戦争犯罪人容疑者、逮捕をとりやめる

今年、8月、 パレスチナ人にはイスラエル軍から受けた損害を訴えられないとする法改定 がイスラエル国会(クネセト)で行われた。「敵国民」と「占領地の住人」に限り、どんな過失だろうとイスラエル軍と国境警察から受けた損害を起訴することができないという差別的で一方的な法律が成立した。完璧な誤りによってパレスチナ人が殺されても、一切その責任をイスラエル国は負わないというものだ。

実際には法改定以前にも、パレスチナ人がイスラエル軍による損害を訴え出ても認められることはほとんどなかったが、それが制度としても不可能になった。

まったく無実のパレスチナ人を殺しても、傷つけてもイスラエルは裁かれることがないのか。イスラエル国内でその可能性が完全に閉ざされた今、パレスチナ人たちは国外でイスラエルの戦争犯罪を裁く道を模索し始めた。

そして、英国の「戦争犯罪法」にのっとり、ガザの指揮官だった元イスラエル軍人を戦争犯罪人として告発、英国はその指揮官への逮捕状を発行した。

が、実際にはこの逮捕は容疑者確保に失敗し、その後に逮捕状そのものが取り消されるという展開を見せている。パレスチナ人たちの願いの前に立ちはだかるものは大きい。この経過を辿ってみる。

英国の下級裁判所、元イスラエル軍人への逮捕状を発行

ロンドン市内のボー・ストリート下級裁判所は、英国の戦争犯罪法にのっとり、ジュネーブ条約に違反し、人道的な犯罪を犯したかどで告発されていた元イスラエル軍人で、ガザ地区の総司令官を務めていたドロン・アルモグに対する逮捕状を発行した。

この告発を行ったのはガザに本拠地を置くパレスチナ人権センター(PCHR)で、英国の事務弁護士事務所ヒックマン&ローズとともにアルモグ元司令官が任期中に犯した人道的罪の証拠を揃え、提出していた。

アルモグ(54)は、2000年11月から2003年7月までイスラエル軍のガザ地区総司令官を務め、その間には2002年7月ガザ市の 人口密集地に1トン爆弾を投下し、無実の人間を15人ほど殺害する ということも指揮してきた。

今回、パレスチナ人権センターは、彼の任期中に行われた複数の戦争犯罪の被害者たちから依頼を受け、4つほどの事件*の証拠を提出していた。そのうち、逮捕状は2002年1月10日にガザ南部のラファ難民キャンプで行われた59軒の家屋破壊容疑で発行された。(他のものは尋問が必要だということで、この件が採用された)。

また、アルモグの告発に関しては、イスラエルの兵役拒否団体「イエシュ・グブウル」(占領地での兵役を拒否する軍人団体)のメンバーも、アルモグの責任の下に行われたガザでの人道的犯罪を立証する材料をヒックマン&ローズに提出していた。

この逮捕状をもとに英国メトロポリタン警察の「反テロ、戦争犯罪」ユニットはアルモグ容疑者が英国の地に足を踏み入れたときに、彼を逮捕する手はずを整えていた。

誰かがリークし、アルモグは逮捕を免れた

厳密にはこの逮捕状自体は、アルモグがチャリティの仕事で英国を訪れる時期に発効されることになっていて、逮捕予定は内密に整えられていた。

9月11日、アルモグはチャリティーの仕事で英国を訪れ、イスラエルのエルアル航空でヒースロー空港に到着した。

だが、アルモグ自身の言葉によると、機内から出ようとしていた矢先にエルアル航空のスタッフが降りないようにという指示を出してきたと言う。

「しばらくして、客室乗務員のチーフが私にイスラエル軍の随行員がこちらに向かっていて、私と話したがっているということを言った」(アルモグ談、BBC Newsによる)

その随行員に電話したアルモグは機内から出ないように指示を受け、そのままエルアル機内に留まり続け、イスラエルに引き返した。アルモグはこうして逮捕を免れた。

パレスチナ人権センターとヒックマン&ローズは、いくつかのリークがアルモグの逃亡を可能にしたと確信している。また、メトロポリタン警察がヒースロー空港で逮捕予定のアルモグの到着を待っている間に、イスラエルの外交筋と軍人たちはエルアル機にアクセスすることができたこともパレスチナ人権センターは指摘している。

「ドロン・アルモグが犯した戦争犯罪の被害者であるパレスチナ人権センターとハックマン&ローズへの依頼人たちは、裁きを受けるべき容疑人が戦争犯罪容疑から逃亡することを手助けしたことに何ものかが責任を負っていると考えている。…」(PCHRによる、13日付)

として、13日にハックマン&ローズはメトロポリタン警察と英国外務省にアルモグの逃亡に関する迅速な調査を要求する文書を提出した。司法権が何かの圧力によって侵害されている可能性もこのリークは示している。

パレスチナ人権センターは、ガザで起きた事件の被害者たちが、イスラエルの「罪のがれ」に対し、英国や世界の人権団体も声をあげてほしいと願っていることを伝えている。

逮捕状そのものも、取り消された

その後、16日になって、イスラエル外務省は英国からメトロポリタン警察がこの逮捕状そのものを取り消したという通知を受けたことを発表した。

イスラエル外務省のレゲブ氏によると、テルアビブの英国大使館が「手続き上の理由によりアルモグに関するケースは取り下げられた」("The British Embassy in Tel Aviv informed Israel that the case against Almog was being dropped for procedural reasons, said Foreign Ministry official Mark Regev."ハアレツ紙、17日)と知らせてきたということらしい。

ロンドンのメトロポリタン警察はこの件に関するコメントの発表を拒否している。

しかし、イスラエル外務省はイスラエルの軍人たちが英国で同じように逮捕状を出される可能性はあると語っている。

そして、前イスラエル軍参謀総長のモッシェ・ヤアロンは、この件の影響でロンドンへの旅行を今週とりやめたともハアレツは伝えている。

イスラエル外務省法顧問のロビー・サブレ氏は「このケースは確実に悪意による告訴だ」として怒り、悪意による告発を取り上げている法廷を批判。

ハアレツ紙は

「イスラエルは他の元兵士たちも英国やスペイン、ベルギー、ドイツなどの他の国々で「戦争犯罪法」によって逮捕される可能性を懸念している。多くの元軍司令官たちは現在では有力な政治家や国外でビジネスを展開する企業のエグゼクティヴとなっている」
と書いている。


*裁判所に提出されていたアルモグ氏の他の戦争犯罪は

  • 2003年3月3日に妊娠9ヶ月だったNoha Shukri al Makadmaが殺害された件
  • 2001年12月30日にMohammad Abed al Rahman al Madhounが殺害された件
  • 2002年7月22日に1トン爆弾がガザ市に投下され、15人が殺され、150人以上が負傷させられた件

参考文献:

パレスチナ人権センターによるもの:
"Israeli war crimes suspect evades British justice after UK court issues warrant" (PCHR, 9 September 2005)

"Anyone Responsible for Perverting the Court of Justice Must also Face Prosecution" (PCHR, 13 September 2005)

マスメディアの情報:

" Israel general 'avoids UK arrest'" (BBC,12日付)

"British police cancel arrest warrant against retired IDF commander" (ハアレツ、17日付)

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次の文章にこの件に思うことなどを書く予定です。[一言]パレスチナ人たちはさぞ無念だろう。

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