2005.07.13
イスラエル、東エルサレム住民5.5万人を壁で切り離す決定
ガザからの「撤退」にあたり、イスラエル政府が米国に派遣した代表団が米国に22億ドルの追加特別支援金を求めているという話が入ってきた。ガザの軍基地移転やネゲヴ砂漠、ガリラヤでの開発資金にするという。( "Israel to ask U.S. for $2.2 billion in aid for pullout" による)
このガザからの植民地「撤退」だけが注目を浴びているさなか、10日にはイスラエル国会(クネセト)で、東エルサレムのパレスチナ住民5万5000人を隔離壁で切り離すことが了承された。
■一方的に切り離される人々
ガザからの撤退に歩調をあわせるべく、国際的には違法とされた隔離壁の建設を加速しているイスラエルだが、今回決定されたのは自分たちが一方的に併合宣言して、エルサレム市民権を与えた東エルサレムの住民のうち、5万5000人だけを隔離壁によって西岸側にするというもの。(東エルサレムのパレスチナ人口は約23万人)。
この東エルサレム住民は、1967年にイスラエルによる一方的併合宣言があった後、エルサレム市民としてイスラエルに税金を払い続けてきた人々だ。とはいえ、エルサレムでの居住権を認められていただけで、あらゆる行政サービス面で差別を受け、家屋の増改築も認められず、西岸出身の家族と住むことも否定されてきた。そのうえに、隔離壁が立って、エルサレムと切り離されることになる。
「パレスチナ人自爆者を阻止するため」とイスラエルは説明するが、すでに現在までこれらの人々はエルサレムとつながって生きてきて、2つに分割される理由もない。
だが、イスラエルは「壁の向こうに行った住民のために、スクールバスを運行し、郵便局なども作る」というような限りなく表面的なことでこの問題をやり過ごそうとしている。これが米国が求める「パレスチナ人への人道的被害を最小限に留めないといけない」という壁承認の条件への回答であるかもしれない。
東エルサレムの北部に6年ほど前に家を買って建てたというアルビナ夫妻(米国籍保持のパレスチナ人)は米国への移住を考えているという。その当時は、厳格な検問所統制もなく、エルサレム旧市街へ出かけるのは比較的容易だった。
今やエルサレム旧市街へ行くのにはカランディア検問所を通過しないとならなくなり、仕事に向かう夫のトニーさんと幼稚園に通う4歳の娘、レイラちゃんは朝8時に着くために6時に家を出る。片道2時間を通勤、通学に当てている状態だ。
それが今度はさらに壁で区切られ、より一層の困難が予想されることとなった。妻のシルヴィアさんはこう言う。
「移動の自由のなさ、劣っているという感覚がつきまとうこと、そして屈辱…それらが検問にはあるの。毎日、私のIDカードを渡すでしょ、そして命令を兵士から受ける。トランクを開けろ、閉めろ、あれをやれ、これをやれ。私は娘にはもっといい生き方があると思うわ。こんなことを耐えて生きてほしくないのよ」
「もう既に私たちは檻の中に生きているの。イスラエル軍の支配、彼らの決めたルール、彼らの銃のもとでの。
私たちが絶えず面と向かっているのは、ここの人生のなかの不平等。それが私に移住を選ばせるんだわ。不平等は耐えられるものじゃない。」 ( "Wall Makes Jerusalem Family Consider Move" ロイター10日付より)
■パレスチナ総体への打撃
切り離される5万5000人だけがこの隔離壁に影響を受けるわけではない。東エルサレムの残りの人々の中にも、反対に職場、農地、学校、親戚と壁で隔てられる人が大勢いる。
このエルサレムの隔離壁ルートから1キロ以内に生活しているパレスチナ人(東エルサレム住民と西岸住民の双方)になると50万人になる。これらの人々はエルサレムと密接に結びついて生きてきた人々だ。
この壁ルートは西岸へ14キロも食い込み、それはこの部分における西岸の幅の45%に当たる。そして、このルートはマアレ・アドミウム植民地群(入植地)の56もの植民地を壁のイスラエル側──現在は西岸に不法に存在している──に持ってくることになり、49年の停戦ラインである現在のボーダーが完全に消し去られる。
この植民地群が抱えるユダヤ人人口は西岸全体の入植者人口の76%に当たる17万人。さらに東エルサレムにも17万人が入植して暮らしている。この隔離壁によって、東エルサレムのユダヤ人とパレスチナ人の人口における割合は劇的に変化し、パレスチナ人をいっそうマイノリティーに陥れる。
和平プロセスの最終合意事項として置かれているはずのエルサレム問題が、実質的にはイスラエルだけのものと既成事実化されていく最終仕上げがこの隔離壁建設といえよう。
だが、さらに深刻なのは、この隔離壁によって西岸そのものが大きく2つに分割されることだ。
マアレ・アドミウム植民地群*と一体化したエルサレムがイスラエルになって西岸の真ん中に陣取り、カランディア以北のラッマラーから北すべてと、ベツレヘム以南の南すべてを分断してしまう。(→ この地図 を参照のこと。地図解説は ひとつ前の文章末尾 に。西岸全体を見渡す地図は 新しい壁ルート地図 に。)
2つに分断された西岸を結ぶバイパス道路も申し訳のように構想されているが、たった1本の道路だけでつながっている状態は、封鎖されれば終わりという意味で、完全にイスラエルのコントロール下にあることと変わりない。
すでに経済的には破滅状態にあるパレスチナにとって、ずっと文化的、経済的センターであったエルサレムと切り離され、西岸自体も分断されるというのは、さらなる破綻を招くだけだ。
*マアレ・アドミウム植民地群とその拡大については 「存続可能なパレスチナ国家の終わり」 に詳しく書かれている。
■断片となったパレスチナ
パレスチナの領土の一体性ということはブッシュ政権でさえも、イスラエルに忠告し続けてきたことだった。しかし、この隔離壁建設の承認後に米国からは何のコメントも出されていない。
パレスチナではアッバス議長や自治政府高官たちが「領土の強奪だ」「破滅的」「実行不可能」「壁はパレスチナ人とパレスチナ人を隔てる」などと猛反発しているが、イスラエル側は「これは最終的な境界ではない。単にエルサレムの境界なのだ」とうそぶいている。
唯一、イスラエル、パレスチナを訪問しているEUのソラーナ外交上級代表が今回の決定を批判している。
「イスラエルには自衛する権利があると我々は考えるが、同時に我々はイスラエル領土の外側に壁を建設するのは法的に適切とは言えず、人道上の問題を引き起こすと考える。」
ソラーナ代表は、西岸を分割するため、EUが隔離壁全般に対して反対してきたのと同様に、今回のエルサレムの分割に反対すると述べた。また、ムスリム、ユダヤ教徒、クリスチャンにとって神聖な都市に対しての象徴的な効果も今回の決定は持つと発言している。( "EU joins outcry against Israel's Jerusalem barrier" を参照)
しかし、EUの隔離壁への反対姿勢は今までその建設を止める力にはなってこなかった。今回の批判もイスラエルに影響を及ぼすとは思いがたい。
(とりあえず、完成)
参考記事:
"One year after ICJ ruling, Israel OKs Wall in Jerusalem"
"Israel Cabinet Endorses Jerusalem Barrier"
"Palestinians fear impact of separation from Jerusalem" (エルサレムから引き離されるシュファット難民キャンプの住民たちの不安を中心に書いている。壁建設で家そのものを壊されそうになっている人の言葉↓。)
「"They (the Israelis) are tightening the grip around us day after day. What kind of a future or destiny do they want for our children? The sadness and anxiety is spreading through and dominating our lives."」
※この文章はひとつ前の 「私たち、どこに行けばいいの?」─東エルサレムの家屋破壊の新たな動き と対になっています。


