2005.02.08

「本当に「停戦」が成立するのか?」─首脳会談の日に

(以下は、ナブルス通信臨時号として、8日夜に発行したものです)

本当に「停戦」が成立するのか?

2005年2月8日
  文責:ビー・カミムーラ

今日、8日、エジプトのシャルムエルシェイクで、アッバス新自治政府議長とシャロン首相の会談が行われ、相互停戦の合意が発表される見通しです。

3500名以上の犠牲を出したこの4年間に終止符が本当に打たれるなら、喜ばしいことです。しかし、この「停戦」はとてももろいものだと言わざるを得ません。

この停戦により、イスラエルは900人のパレスチナ人囚人の釈放(…しかし、そのほとんどは逮捕3ヶ月以内、全体での囚人数は8000〜9000人)と5つの西岸の都市の治安権の返還(ラマッラー、エリコ、トゥルカレム、カルキリヤ、ベツレヘムのみを対象。ジェニンとナブルスが除外されていることに注目)を実施する予定なのですが、パレスチナ抵抗諸機関からは「停戦発表前にアッバスはレジスタンス・グループと話し合いをするべきだ」とクレームがついています。

ハマスの指導者のひとりであるムハンマド・アッザハル氏は「政治犯の釈放が完全に行われない。本当にイスラエルが今の攻撃や侵攻を停止するのか、見届ける」という談話を発表しています。また、イスラーム聖戦のナフェズ・アッザム氏は停戦そのものについて語ることは避け、「今後のことは我々ではなく、イスラエルの姿勢いかんによる。我々は巨大な監獄のなかで日々惨めな生活を強いられ、イスラエルの行いを実際に体験している。イスラエルが現実にどう振る舞うのかが問題なのだ」と語っています。

実際に4日(金)にもガザでは非武装の民間人2人がイスラエル軍によって殺されました(イスラエル軍も非武装だったと認めている)。5日(土)にはガザのハンユニスでイスラエル軍の砲撃、銃撃が民家に向けて行われ、41歳の男性が首を撃たれて負傷しています。逮捕作戦も相変わらず続いています。

暫定的な停戦が始まってから11日目の今月初旬に、この期間だけでも22人が殺され、47人が負傷し、約200人が逮捕されているということで、ラファの小学校で少女が殺されたのをとどめに「堪忍袋の緒が切れた」とパレスチナ8グループの共同声明が出されていました。

"We will not keep our arms folded" (英文)

要旨は「イスラエル軍が(土地収奪などを含めた)攻撃を止めない限りは自分たちは武器を捨てない」というものです。

8日に先立つ、7日、イスラエル、パレスチナを訪れていたコンドリーザ・ライス米国務長官はアッバス議長と会談し、「ロードマップ」に基づいた和平協議再開の重要性を強調しました。米国はパレスチナに緊急援助として雇用を生み出すため4000万ドル(約42億円--90日以内の短期、総額では3億5000万ドル=約370億円を予定)の支援を自治政府に約束。と、同時に停戦を監視し、パレスチナ自治政府治安組織を再建するために「治安調整官」を派遣することを表明しています。

しかし、この「治安調整官」として任命を受けたのは、現役の軍人であるウィリアム・ウォード米軍中将です。帰国時にライス国務長官がベングリオン空港で発表したこの「治安調整官」の派遣は──そもそもイスラエルに巨額の軍事支援を続けている米国が「調整」役になれるのかという根本的な問題は抜きにしても──、パレスチナのなかに亀裂を持ち込む可能性があります。

というのは、米軍の指導下で自治政府治安組織が再編されたとして、その矛先がハマスやイスラーム聖戦の活動家取り締まりに向けられていったら、それは単にイスラエル軍の肩代わりをしているにすぎなく、また、自治政府はイラクのアラウィ同様「傀儡」としか見られなくなります。不人気なアッバスがそれを行ったら、ますます人々の気持ちは自治政府から遠のくでしょう。

「雇用創出のため」というアメである緊急援助も内容を見届ける必要があります。

これらのことに増して、「停戦」をあやうくしているのは、結局は置き去りにされた植民地(入植地)と壁の問題です。

ライス国務長官は「米国は入植地、および壁のルートと「不在者財産(没収)法」*に大いに感心を払っている」とイスラエル政府に一定釘をさしていますが、それがどれほどの意味を持つものなのか。

たとえば、現在、イスラエル政府が発表しているのは、「ガザからの入植地撤退後、西岸からは違法なアウトポストだけを取り除く」ということのみです。アウトポストは入植者が置いたトレーラーなどの占拠物であり、植民地(入植地)ではありません(植民地自体が違法な存在なのは言うもまでもないことです)。

そして、西岸でも最大規模を誇るアリエル植民地(入植地)を新たに壁で囲うとしています。それは現在作っている隔離壁のルートがアリエルまでを取り込むことに対して、米国が反対を表明しているからです。隔離壁で取り込むのが無理ならば、単独の壁で覆ってしまおうというわけです。これにより最低6000ドゥナム(1ドゥナム=1000平方m)の土地が壁のために新たにパレスチナ人から奪われ、1000ドゥナムは壁そのものの建設用地に、残りの5000ドゥナムはアリエル植民地に併合されてしまいます。

農地を強奪されるパレスチナ人は、没収の差し止めを提訴していますが、「不在者財産法」を盾に土地収用が進められそうな状態になっています。

[追加]このアリエル単独壁の工事が6月に入って始まりました( 「マルダ村で木々の伐採が続く 村人の抵抗も続く」 05.6.17

そして、7日には、イスラエル政府が隔離壁の合法性について審議しているイスラエル高裁に対して、「ハーグ国際司法裁判所(ICJ)の裁決──隔離壁は違法である──は、意味を持たない」という意見を提出するということが報道されました(ハアレツ紙など)。これは、主に国際司法裁判所が古い資料によって判断を下し、すでにイスラエルは壁のルートを変更しているというのが根拠になっています。

つまり、アリエルのように隔離壁から外して、単独の壁で囲んだケースや、数キロほどルートを動かしたというようなことをあげて、「壁は違法ではない」と主張しているということです。

この間にも壁は建設を続けられ、多くのパレスチナの村や町がこまぎれの破片になって、切り離されていっています。また、植民地を結ぶ道路も建設されていってます**。この散り散りに砕け散った土地を総称して、パレスチナ国家と呼んだところで、経済的にも政治的にも文化的にもひとつの有機体として機能しないものは、成り立ちようがありません。それ以前に人々が生きていくことすら困難です。

というわけで、「停戦」とどんなに言ってみても、オスロ合意と同じく、何ら根本的な問題は解決してないのです。これ以上の犠牲者がでるのは終わりにして欲しい、平和に暮らしたいというパレスチナ人たちの希望は、この「停戦」でかなえられるのかというと、非常に難しいと感じています。


* 不在者財産(没収)法が東エルサレムとその近郊にも適用されようとしている。
「これが停戦状態? 気になるnews」

** 植民地道路建設でも土地を取り上げられる。
「引きずられて、殴られて…」

他、外出禁止令下に置かれた村からのレポート:
「停戦交渉だって?そういう奴らをここ、サイダに連れてきてよ、お願い!」

強制送還になる外国人支援者の手記:
「非暴力であろうと、占領への反対は許さない」 強制送還への道

トップページインデックス | 関連カテゴリー コラム

■ コメント&トラックバック (1 件)

首脳会談は「オスロ合意」と同じ運命……

コメント by :

トラックバック from:池谷石黒ウェブログ

2005.02.10 (Thu) 02:02