2007.06.19
「クーデタ」を起こしたのはどちら側か
ガザに住んでいるナジュワさんからメールが届いた。「自分はどの党派も支援していない。そのうえで、今回の流血に至った事態にひどく絶望している」という内容だった。パレスチナ人としてのアイデンティティ、誇り、抵抗の歴史、そういうものがすべて、パレスチナ人同士で傷つけ合ったこの間の抗争で砕け散ってしまったとナジュワさんは書いている。「自分はパレスチナ人であることを洗い流してしまいたい」
この言葉に心が塞ぐ。権力闘争をしている人たちには、この心情は届かなくなっているのだろうか。
イスラエルが封鎖を強化しはじめているというガザの様子も気になる。これはまた別に書くとして、今回の「クーデタ」と言われている事件を分析した記事を紹介してみたい。
Whose Coup, Exactly? (Virginia Tilley, The Electronic Intifada, 18 June 2007)
内容はアッバス議長(大統領)が今、やっている緊急内閣の組閣などにどれだけの法的正統性があるのかという検証になっている。ざっとかいつまんでみると、
・議長には首相権限を剥奪する資格があるが、政権党(ハマス)から次の首相を任命しなければいけない。(→これに反している)
・内閣が解散しても、それが評議会で承認されるまでには、前内閣が統治を行う(→やみくもに「緊急内閣」が動き出している)
・新内閣も新首相も評議会での承認が必要(→アッバス議長の作った「緊急内閣」は、ハマスが多数の評議会では承認される見通しがない)
・議長には早期選挙を実施する権限はない
(ほかにもあるが割愛)
これらはアラファト議長時代に議長(大統領)の権限をはっきり制限するために作られたパレスチナの基本法によるものであって、今、アッバスがやっていることは、ことごとくそれに反しているということになる。その意味で、ファタハが支配の中心となる「緊急内閣」は、パレスチナの民主主義を踏みにじったものだということだ。「クーデタ」というなら、このファタハの動きのほうがふさわしい。
米国やイスラエルは、その非民主的な政権を支持しているということにもなる。(中東に民主主義を、というようなスローガンはどこへ行ったのか?)
法的な正統性でいえば、ハマス政権が持っていることになるが、そのことは米国が主導する世界やいくつかのアラブ諸国からは無視されていくのだろう。まるで中南米の過去を見るような感じがする。
「現在、ホワイトハウスで中東政策を担当する国家安全保障担当副補佐官エリオット・エイブラムズ(Elliott Abrams)はレーガン大統領の元、1980年代にニカラグアのコントラへの資金流用にかかわり、イランコントラ事件で議会への偽証罪で有罪判決を受けた人物です。エルサルバドル、エルモゾテにおける一般民間人の虐殺や残虐行為の隠蔽にも手を貸したことで知られる人物です。
エイブラムズが中東政策のチーフとして進めてきたのは「パレスチナにおけるコントラ」作りであり、その受け皿となっているのが、ガザの軍閥でパレスチナ自治政府国家安全保障顧問、ムハマド・ダーラン(Mohammad Dahlan)だと言われています。」とはアリ・アブニマーの指摘から([山頂2号]経由)。
このムハンマド・ダハランのことは別途、紹介するつもり。
■ コメント&トラックバック (5 件)
Re: 制度に関する疑問
コメント by :ビー
>Old Liberalistさん、
ご指摘をありがとうございます。確かに紹介した記事だけではなんともわからないところがありますね。パレスチナ基本法の全容を見ていないので、判断がつきかねる部分もあります。記事では
「The President can rule by degree during emergencies (Article 43) but the Legislative Council must approve all these decrees at its first meeting.」
と評議会での承認を求められることになっているのですが、それと「1カ月のフリーハンド」のかみ合い方がよくわかりません。今後も調べてみます。
2007.06.20 (Wed) 20:20
それは誤解です
コメント by :ぶんぶん
非常事態であるからアッバスが緊急内閣を組織できるということは,まず,この非常事態がアッバス自らによって作り出されたものであるので,当てはめて考えることは無理があると思います。
ハマスは内閣になってから長い間,停戦合意をイスラエルに対して守っていました。イスラエルは挑発しましたが。
ハマスが選挙で選ばれるとは,アッバスは考えなかったので,ハマス政府が成立してからは,ことあるごとにハマスの足を引っ張ってきましたし,あからさまな武力攻撃もしかけてきました。正式な手続きをふんだ内閣に対して,武力攻撃をしかける人間に「テロとの戦い」などと言う資格も権利もありません。
2007.06.22 (Fri) 22:26
権力闘争
コメント by :Old Liberalist
きちんと知らべもせずに部外者の私が四の五の屁理屈を言うのは無理のあるところですが、多分次のような点は指摘できるのではないかと思います。
1.アッバス氏も選挙で選ばれ、ハマスも含めたパレスチナの人々が正当と認める大統領である。
2.一般的に非常事態宣言といったものは、最高権力者がごく少数者の同意または単独で恣意的に発動できる場合が多い。
3.正式な手続きを踏んで出された非常事態宣言下では、非常大権を与えられた権力者に従わないことは反乱とみなされてもおかしくない。
つまりアッバス大統領が正規の手続きを踏んで非常事態宣言を出したのなら、(その判断が恣意的なものであっても)従わないハマスが反乱者でしょうし、大統領が法を超越して非常大権を握ったのならアッバス/ファタハのクーデターということになるのでしょう。
もっとも、各党派が独自の武力・軍事力を保有して法に拠ることなく私的に実力行使を行っている状況で法的な正当性を議論しても無意味だとは思います。
つまるところ、ハマスとファタハの権力闘争であって、最終的にはパレスチナの人々により支持された党派が正当とみなされるのでしょう。
2007.06.24 (Sun) 00:05
アッバスとハマスの選挙の違い
コメント by :ぶんぶん
ハマスが選ばれた選挙では,カーター元大統領を代表とするアメリカを初めとする諸外国の監視団がパレスチナに来て,選挙を監視しました。
アッバスの選挙では,外国の監視はなく,現地パレスチナ人が投票所へ行こうとしてファタハの妨害を受け,投票率は半分以下でした。これは当時の新聞記事にも出ていることですが,人々は,マルグーディを選びたかったので,投獄されていても彼が選挙に出られるように,あるいは釈放されるように働き変えたのですが,アッバスがイスラエル側にマルグーディを釈放しないように求めたのです。
以上のような経緯を考えますと,アッバスこそが不正な選挙で権力を得たと言えますし,アッバスこそがクーデターを起こしたと言えます。
2007.06.25 (Mon) 08:02



制度に関する疑問
コメント by :Old Liberalist
いつも、こちらの情報を参考にさせて頂いています。毎回わかり易いご説明で、納得できることが多いのですが今回は少し気になりましたのでコメントさせて頂きます。
今回ご紹介されておられる分析記事に首をかしげました。記事の中であがっている法的検証は、平時における権限の話であるように感じられます。
平時であれば、大統領が首相を解任しても、後継首班を選ぶまたは承認するのはあくまで議会であって、大統領の自由にはならない、というのはうなずけるところです。
しかし、今回は非常事態宣言下での話でしょう?記事
でも、
The President can rule by degree during emergencies
とのことですので、基本的に緊急事態の場合には、大統領に非常大権が一時的に与えられるのだろうと思います。緊急自体を想定しておきながら、一方で議会の同意を得なければ何もできない、というのでは制度として意味がないように思います。
従って、問題は非常事態宣言下において大統領に与えられる非常大権の中身であって、この記事ではその内容がよくわかりません。
朝日では、大統領に1ケ月のフリーハンドが与えられるとしていましたが、多分こちらの方が事実に近いのではありますまいか。例えば彼に1ケ月のフリーハンドが与えられるが、後日議会がその内容を全て否認することができる、といった仕組みになっているのではないでしょうか。
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2007.06.20 (Wed) 00:21