2006.12.30

日記:死刑について

忘れられない光景をドキュメンタリーの中で見た。場所は米国のとある刑務所の前。真夜中の12時に多くの人が詰めかけ、奇声を発している。その米国の州では死刑執行の氏名、日時が前もって知らされるという。人々はその情報を元に死刑執行の瞬間を待ち望んで集まっていた。

執行時間が近づくと、カウントダウンが始まる。「テン、ナイン、エイト、セブン…」。その合間に「Go ahead!」とか「Do it!」のような歓声が混じる。執行の時間に沸き上がる「やった〜」という響きの奇声。拍手。

ここに集まっている人々は死刑賛成派で、死刑が行われたことを祝っていたのだった。

実際に見た感じでは、集まっている多くはティーンエイジャーで、思想としての「死刑賛成」というより、ある種の憂さ晴らしが達成されたカタルシスに浸っているように見えた。

集団リンチとしての「死刑」が成就される瞬間と、私には思えた。そこから感じた嫌悪感は今も消えない。

この刑務所前の片隅にはろうそくを持って、ただ静かに立ちつくしている一団もひっそりといた。死刑に反対している人々だ。

その中には今、自分の息子が死刑にされるという母親がいて、泣き崩れそうになるその女性を周りの人々が抱き留め、支えている。この死刑反対グループのなかには被害者の身内も、えん罪で死刑になりかけた人も含まれていた。

坂上香さんが96年に作られた「ジャーニー オブ ホープ」というドキュメンタリーの冒頭シーンだ。このドキュメンタリーは加害者側と被害者側がともに死刑に反対をしていく動きを追ったもので、死刑というあり方を問うているものだった。

今日、イラクでサダム・フセインが死刑にされたというニュースを知り、この冒頭シーンを思い出した。

フセインは確かに極悪の犯罪者だろう。どれだけの人を拷問や虐殺で殺したかわからない。その死に溜飲を下げ、拍手喝采を送っている人もイラクには数多くいるだろう。

しかし、死刑にすることで何が解決したのだろう?

アムネスティ・インターナショナルが指摘しているように、フセインの裁判の公平性に大きな疑問符がつくというだけではなく、フセインを殺すことによってまだ明らかにされていない虐殺の真相も闇に葬り去られてしまった。

私はサダム・フセインを本当に裁いてほしかった。真実をできるだけ明るみにだし、そして、自らが行ったことと向き合っていってほしかった。

フセイン一人の死が、殺され、辱められた人々の存在と釣り合うとはとうてい思えない。(そして、裁かれるべきなのは、フセインだけではなく、イラクの人々からさらに多くの命と生活を奪った国の為政者たちだとも思う)

フセインの死刑は死刑そのものが「政治ショー」であることを際だたせている。

死刑は「政治」の道具でしかない。ドキュメンタリー「ジャーニー オブ ホープ」はかけがえのない人の命を奪われた被害側の一人ひとりが、加害者への憎しみと向き合い、それを乗り越えたときに、自分自身が解き放たれて、加害者の死を願う心をなくす過程を描いていた。加害者であっても、そこには自分が喪ったのと同じ命があることを感じ、その命が奪われることに痛みを感じるようになっていく。だから、ろうそくを持って、死刑反対の意思表示を行う。だが、その人々の思いとは関係なく、冒頭シーンでは死刑が執行されていた。

国家による「公然」の殺し。それをまだ行っている国は国連加盟国192か国のうち73か国。

日本でもこのクリスマスの日に4人の死刑囚が死刑執行された。

米国のある州のようにそれを祝う人たちの姿は表立って目にしないが、それを当然として受け止めてしまう空気はまだ存在している。人の死をべつの死であがなうことの野蛮性に早く気づきたい。


死刑制度に反対するエントリのいくつかにTBを入れます。(途中)

「死刑廃止と憲法改正」 [壊れる前に]

「私は死刑制度廃止を望み、今日の死刑執行に抗議します。 」 [秘書課、村野瀬 玲奈です。](「1981年9月17日、フランス国民議会、死刑廃止法案の審議における、法務大臣ロベール・バダンテールの演説全文」訳文へのリンクあり)

「私の死刑考」 [言ノ葉工房](死刑の問題点が広く書かれています)

「フセイン処刑に抗議する」 [死刑問題特報室](他にも死刑の問題や法規など資料がたくさん)

「長勢法務大臣の『クリスマス処刑』に抗議する」 [保坂展人のどこどこ日記](「死刑廃止議員連盟の申し入れ」あり)

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■ コメント&トラックバック (7 件)

私の死刑考

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2006.12.30 (Sat) 21:42

フランス、「改憲」へ  (死刑廃止)

コメント by :

トラックバック from:秘書課村野瀬玲奈です

2006.12.30 (Sat) 21:51

>死刑について

コメント by :レイランダー

「ジャーニー オブ ホープ」に出てくる州というのは、もしかしたらテキサスではないですか?マイケル・ムーアのTVシリーズ「Awful Truth」(邦題「アホで間抜けなアメリカ白人)の中で、ほとんど同じ光景が出てきました。ビデオの何巻だったかな・・・その当時の知事は例によってG・ブッシュ・息子だったんですが。たしか彼の在任中、年間死刑執行数の新記録を作ったという。

僕もフセインのニュースがらみで、先ほど記事をアップしたところですが、死刑制度についてのものではなくて、どっちかというと横道にそれてる話です。ビーさんの紹介しているブログの記事の方が全然勉強になります。特にフランスの「改憲」をめぐっては、ちょっと衝撃を受けております。

P.S.
ミーダーンの先日の集まりには行けなかったのですが、今後とも面白そうな展開がある時には積極的に紹介し、また参加して報告したいと思っています。来年もよろしく。良いお年を!(腰を大事にしてくださいね──僕も持病だらけですが^^)

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2006.12.31 (Sun) 01:00

茶番ですな

コメント by :サダムじゃなくてブッシュでしょう

Hashim al-Ubaydi's son was sentenced to death by a 'revolution court' of
the Saddam regime. But he is not pleased to see that Saddam Hussein will
be executed in the present circumstances.

"I was an opponent of Saddam and his policies, but I support putting him
through a real national court away from occupation influence. I cannot
forgive or forget that my son was executed, but as an Iraqi nationalist
I cannot accept to see the president of my country put to trial in such
a ridiculous way by invaders and their tails."

だれだってこう思うですね。

サダムじゃなくてブッシュでしょう。同じ目にあうなら。
他国に押し入り、65万人を殺しても、大統領っちゅうのもすごい話。

この世の中は実に不公平ですなあ。

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2006.12.31 (Sun) 07:15

新しい年に私が目指すこと

コメント by :うに

サダム・フセインの処刑について、2002年のアルンダティ・ロイさんの文章が今日読んでも価値のあるものだと思うので紹介しました。今年もよろしくお願いします!

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2007.01.01 (Mon) 00:17

記憶があやふやで…

コメント by :ビー

>レイランダーさん、

「ジャーニー オブ ホープ」は人に見せてもらって、メモすら取ってないんですよ。それでテキサスだったという気もするし、違うかもしれないという気も。すみません。私としては同じ場所であってほしいと思います。全米のあちらこちらであのような光景が繰り広げられているとは思いたくないですから。

たしかにそうテキサス州知事だったブッシュJr.は死刑執行数最高記録を作ったのですよね。元来そういうことが好きなんでしょうかね?米国でのえん罪率の高さを思うと心底心が凍りつきます。

では、こちらこそ今年もよろしくお願いします。

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2007.01.01 (Mon) 02:47

「日本の常識は世界の非常識」

コメント by :ビー

>「サダムじゃなくてブッシュでしょう」さん、

英文でコメントを出しているハシムさんの気持ちがよくわかります。サダムを裁くなら、占領サイドとは独立した「自分たち」の法廷で裁きたかったという気持ち。

ブッシュが裁かれるべきなのはその通りで、そうあってほしいと思います。戦犯法廷に出したいですね。このことに関連して、二つ上のコメントを入れてくださっている「壊れる前に…」さんのエントリがアルンダティ・ロイさんの文章や、フセイン死刑についてロイさん出身州の反応を伝えてくれています。

>うにさん、

よいエントリを教えてくださり、ありがとうございます。ロイさん出身地のケララ州のことはまったく知らなかったので、ある種新鮮な思いで読みました。最高裁元判事が法廷の公正さに疑義を示した上で「これは野蛮な殺人であり、歴史はブッシュを有罪とするだろう」と語ったところなど、じつにスカッとするものがあります。日本ではオフィシャルな人が新聞でこんなふうに語らないですよね。というわけで、このコメントのタイトル、うにさんの文章から引用させてもらいました。

こちらこそ、今年もよろしく!

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2007.01.01 (Mon) 03:01