2005.11.19

「用語規定」の壁を破って 嘘とサヨナラするために

大昔に読んだハンナ・アーレントの『イェルサレムのアイヒマン』を読み直している。ここには新しい発見が山と詰まっているが、そこからの一節。

「この件[ユダヤ人の絶滅]に関する一切の通信には厳重な〈用語規定〉が課せられ、特務部隊からの報告を別とすれば、〈絶滅〉とか〈一掃〉とか〈殺害〉というような不適当な言葉が出てくる書類が見つかることはめったにない」(同書、大久保和郎訳、みすず書房より)

ちょうど、テレビで米国民の60%以上が今やイラク侵略に反対し、共和党内からも批判を受けているチェイニーやブッシュの姿が出ていた。開戦の理由となる情報を操作したと強い批判を打ち出した民主党の議員に対して彼らは

「イラクで戦っている兵士たちへの裏切りだ」「不誠実、不埒」「愛国心に欠ける」
と躍起になって反論している。でも、もうこの言葉は思ったようには通じない情勢になっている気配が濃厚だ。これらの言葉はそのまま、自分たちに返ってくると思ったほうがいいよ、ブッシュくん。

アーレントは書いている。

「殺害を意味するものと規定されていた暗号は〈最終的解決〉、〈移動〉、および〈特別処置〉だった。……

……〈用語規定〉という用語自体が暗号だったのだ。つまりそれは普通には嘘と呼ばれているもののことだったのである。……

……この用語規定方式の懸値なしの効果は、それを使う連中に自分らのしていることを自覚させないことにあるのではなく、殺害や虚言について彼らが抱いている古い〈正常な〉知識によって自分のしていることを判断するのを妨げることにあった。」(同書より、ドイツ語の部分は省略、強調は引用者)

オーウェルの言う「ニュースピーク」ともほとんど同じだと思うが、偽りの言葉を操って人を欺いているものは、自分自身も欺いていく。ブッシュやチェイニーを見ていると、自分の言葉に溺れて認識も歪んでいることを感じる。

あまりにも多大な犠牲を出し、どうしていいのかわからない泥沼の状態にイラクを置いてしまっているが、それでもイラクについて彼らの言葉を信じる米国民は思い切り減った。そういうズレが生じていることも彼らには本当のところ、ぴんと来ないのだろう。

そうそう、韓国がちょっとした平手打ちをブッシュに食らわせたらしい。事前に相談することなく、いきなりイラクから1000人ほどの兵士引き上げ(韓国がイラクに派兵しているうちの3分の一に当たる)を通告して、ブッシュとその取り巻きを慌てさせている。(ベルルスコーニなんかは、「ワシはイラク侵略に反対したんだ。信じてくれ」なんて言っているという変わり身の早さ……。いまさら、だなあ)。

今やブッシュに同調しまくっているのは、同じ語法に犯されているこの国だけのような気もしてくる。障害者〈自立〉支援法と言い、障害者の生存権を脅かす法律を作り、〈民営化〉と言って私営化を語る。その頂点にいるのがこの国の首相で、それをメディアは支えている。(あ、仲間がいた。〈安全フェンス〉などと言って、人の土地に壁を建てている国。)

ナチスが使った〈最終的解決〉というおぞましい言葉がそう遠くない世界になっているのを感じる。


「嘘とごまかしの重ね塗り」 (益岡賢のページ)では、イラク侵略、イラクでの白燐弾、小泉改革などについて、簡潔にこれまでの嘘を書いている。

これを書くまえにざざっと読んだもの: Criticism of Bush Iraq policy stalks him overseas (USA Today!)、 Hawkish Democrat Calls for Iraq Pullout (AP)、 Incendiary weapons: The big white lie ─ US finally admits using white phosphorus in Fallujah - and beyond. Iraqis investigate if civilians were targeted with deadly chemical(白燐弾関連)─(Independnt、19日付)

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■ コメント&トラックバック (2 件)

日米関係の機関化も。

コメント by :田仁

日米関係の機関化も正しくは植民地化でしょう。
米国がお金を得る為の語法で、日本についての「改革」は懲罰で「自由化」はお褒めの言葉、中国についての「透明性」は懲罰で「民主化」はお褒めの言葉。
もっと色々あるとは思いますが...。

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