2005.08.12
イスラエルを脅かすユダヤ人たち ─「撤退」と極右
ガザからの入植地「撤退」に反対するイスラエルの右派は水曜にエルサレムの嘆きの壁でお祈りの集会を持った後、木曜11日にはテルアビブのラビン広場で10万人規模の反対集会を持った。「撤退はユダヤ人の民族浄化だ」というプラカードなどを持った右派が集まり、入植者協会はどのように抗議をしていくかというプランを参加者に披露した。それによると、暴力的手段を使わず、グッシュ・カティーフ入植地群の入り口にあたる交差点で、軍の進行を遅くさせるというような計画らしい。(ハアレツ紙による)
「撤退」開始の期日が迫るにつれ、イスラエル国内のアラブ系市民(パレスチナ人)は、先日起こったバスでの虐殺事件のようなことが再び起きるのではないかという不安に怯えている。イスラエルの平和団体グッシュ・シャロームの代表であるウリ・アブネリは、「撤退」に反対して起きるテロのうち、最も容易で、効果が大きいのはアラブ系市民の虐殺だと書いた。
アブネリは "A Massacre Foretold" で、バス乱射事件にまつわる疑問をいくつも提出している。
まずは表面的な疑問として、どうしてイスラエルの国内諜報機関(シンベト、あるいはシャバク)は、極右の人間がアラブ系市民虐殺を起こす可能性を知りながら、身元がわかっている極右の調査をしていなかったのかということを挙げている。バス乱射事件の犯人は、カハ主義者(カハネ信奉者)*の巣窟であるタプア入植地の住民だったので、目を付けるのは簡単だったではないかというのである。しかも、犯人は右派の活動で何度も逮捕されていて、脱走した軍隊の指揮官も彼が「撤退」に協力するのを拒否したのを知っていたのに、銃を持たせたままだった。これらはどうしてなのかとアブネリは書いている。
もっと根本的で、複雑な疑問はこういうものだ。
カハ党は「テロ組織」として12年前に非合法になったにも関わらず、カハ主義者たちがふんぞり返って歩き回ることがなぜ許されてきたか──。
「カハ主義者たちは、どのような基準に立っても、宗教的ファシストグループである。アラブ人の殺害、報復殺害、アラブ系イスラエル市民とパレスチナ人の追放、非民主的な体制を提唱する集団だ」……
「しかし、ここのところ数年間、カハ主義者たちは誰にも邪魔されず、うろついては、占領地のパレスチナ人、イスラエル内のアラブ系市民に数知れないほどの暴力を行ってきた」……
「さらに悪いことに、ここ数年は、彼らがテレビスターのように扱われてきた。扇動のメッセージが放送され、インタビューは「カハ活動家」などのキャプション付きで流された。パレスチナ人の攻撃による犠牲者の葬儀や、パレスチナ人の裁判に彼らは現れ、「アラブ人に死を!」と叫んだ。カハ主義者たちはテレビを新規のメンバーをリクルートする道具としてオープンに利用した」……
この文章によると、イスラエルではカハネの顔のポスターを目にすることなくしては旅できないという。誰も怖くて、そのポスターを剥がすことをしないとあった。
どうして、このようなことになっているのか。それをアブネリはこう断言する。ワイマール共和国時代のドイツのように、国家と警察はこのようなファシストを「見当違いの愛国者」程度に見ているからだという。そして、不法な入植地活動に彼らの存在を利用してきたからだ、と。だから、カハ主義者たちの入植地が存在しているのだとアブネリは言う。
また、アブネリは、テロを起こす極右の要因を「宗教的シオニズム」の中に見て取っている。元々、イスラエルが存在する前からあった正統派ユダヤ教は、宗教をナショナリズムに利用することに反対していた。今でも超正統派のユダヤ教徒は離散の生活を続けているし、イスラエルを認めている正統派でもイスラエル国旗や建国記念日を祝うことを禁じている。
このような従来のユダヤ教と、イスラエルの中で発達した(いわば「メード・イン・イスラエル」の)宗教的シオニズムは「似て非なるもの」だとアブネリは言う。宗教的シオニズムは「救世主的党派」として成長し、メシアが早く出現するために償いを行う──神と個人は直接につながっていて、神が何をなすべきか告げる──という信仰を形作った。入植地はこのような信仰の揺籃の地だとアブネリは書く。この"Repentant Jews"(懺悔するユダヤ人)は、過激な党派で、世俗のユダヤ人をイスラエルに害を与える者とみなし、その党派の多くのラビは──国家から給与をもらっているものも含めて──、民主主義を否定し、信仰に則った国家を提唱している。
入植者協会はけっして暴力的手段を公には肯定しないが、カハ主義者たちやこの"Repentant Jews"の存在を暗に認めているというのがアブネリの指摘しているところだ。
結局のところ、アブネリは「ユダヤ人テロリスト」を、突然変異のように涌いて出てきたのではなく、イスラエル社会に根ざした部分から生まれているものとして描いている。「ニワトリが先か、タマゴが先か」。それはわからないが、強い宗教的なシオニズム──ナショナリズムが宗教と合体している形──が存在しなければ、入植地活動は行えなかっただろうし、入植地活動のなかでその信仰はさらに純化されていったと思われる。
アブネリが想定している恐ろしいシナリオは、入植地協会が主張する「撤退」への非暴力の抵抗があまり効果を持ち得ないとわかってきたときに、極右の殺人を伴う暴力に右派の一部が吸い寄せられていくという恐ろしいものだ。
*カハ主義者(カハネ信奉者)……メイル・カハネは米国から移住してきたユダヤ人で、元FBI。米国では反黒人キャンペーンを行い、ブラックパンサー本部への襲撃、また「在米アラブ人差別反対同盟」の会長暗殺に関与した。大イスラエル復活を唱え、全パレスチナ人(イスラエル内も占領地も含めて)の追放を訴えた。信仰に基づくイスラエル国家作りを目指すカハ党を結成し、国会議員にもなったが、カハ党が人種差別を公然と認めているために非合法化されて、議員をやめさせられた。カハネは米国でエジプト人に暗殺されたが、その影響を受けた人々はイスラエルで入植地を拠点として活動している。1994年、ヘブロンの「マクペラの洞窟」=「イブラヒーム・モスク」で銃を乱射し、パレスチナ人を虐殺したバルーフ・ゴールドシュタインもカハ主義者だった。この事件を契機にして、パレスチナ人による初めての自爆攻撃が行われた。
「NHK-BS1 「ユダヤ過激派」」 にカハネ信奉者の行動はそれなりに書いている。
イスラエルの抱える最も大きな矛盾がこの「撤退」で露わになるのかもしれないと感じているが、それはパレスチナ人が犠牲にされる形をとる可能性が高い。とても憂鬱だ。


