2005.08.05

ユダヤ人「テロリスト」事件を巡って

ひとつ前に書いたユダヤ人青年の銃乱射事件について、補足と日本のメディアの伝え方を少し書いておきたい。

事件の起きた町は「シャファーウムルー」と書くのが、アラビア語として正しいようだ。だが、イスラエルのメディアを発信源にして書くと、「シュフラム」とか「シュファラム」とかになっている。この街はハイファ、ナザレ、アッカなどのアラブ人が多く住む都市から均等くらいの距離にあり、人口3万5千人くらいとのこと。

ハアレツ紙の記事を元に「ドルーズの町」と私は書いてしまったが、詳しい方から「クリスチャン、ムスリム、ドルーズが共存している町」だと教えていただいた。「穏健な」町だと思われているようなところで、今回の事件への反応は予想外だったという話もある。

さて、この事件を日本のマスメディアはどう伝えたかというのをチェックしてみた。(事件そのものはみな、同じようなソースから書いているので、あまり変わりがなく)シャロン首相による「テロリスト」発言を引用したところがほとんどだった。

「シャロン首相は「罪のない市民への残忍なテロ」と強い非難声明を出したが、ガザ地区からのユダヤ人撤退問題との関係の有無には触れなかった。」(朝日新聞オンライン版)

「シャロン首相は4日「血に飢えたテロリストによる罪深い行為」と非難するとともに、アラブ系イスラエル人組織の指導者に電話し哀悼の意を伝えた。」(日経新聞オンライン版)

というような形で、「テロ」という言葉を使っている。オンライン版では「テロ」の言葉がない毎日新聞でも、紙面(大阪版)では「イスラエル兵がテロ」という大きな見出しをつけている。

この事件を理解するうえで重要になるイスラエル国内のアラブ人(パレスチナ人)については、

「現場はイスラエルで最もアラブ系住民が多い地区。」(日経)

と背景にほとんど触れないもの、

「イスラエルでは、人口約660万人の約20%をアラブ系住民が占める。」(讀賣新聞オンライン版)

とごくあっさり事実を書いたものが多かった。

踏み込んでいるが、これが果たしてわかりやすいのかどうかというと疑問に思えるのは、

「イスラエルの人口約690万人のうち、約20%は第1次中東戦争(48〜49年)後もイスラエル領内にとどまったアラブ系住民。社会的に比較的優遇されているユダヤ系住民には強い被差別感を抱いている。」(毎日)

「パレスチナ人」という名称を使い、イスラエルの言う「イスラエル・アラブ」と「パレスチナ人」が同じ人々であることがわかるように書かれていたのは、以下の朝日新聞だけだった。

「イスラエル北部には、イスラエル建国後もそのままとどまり、アラブ系イスラエル人となることを選んだパレスチナ人が多い。イスラエルのアラブ系コミュニティーの指導者は5日にデモやストライキを行うよう呼びかけており、暴動に発展することを警戒した政府は警官隊を同国北部に送り込んでいる。」(朝日新聞)

(太字強調は引用者による)

日本では知られていない部分なので、このくらいの記述ではわかりにくいのではないかと思う。とくに毎日の「ユダヤ系住民には強い被差別感を抱いている。」という記述は、イスラエル国家の体制的差別を「被差別」という感情の問題にしてしまっているが、これは偏った像を抱かせる記述だと思う。

[「イスラエル・アラブ」については 「こんな国とはオサラバだ!」 の中に詳しく書かれている。]

問題のユダヤ人青年が行った犯行については、どの新聞も「ガザ撤退阻止を狙う?」などと「撤退」問題と関連づけて報じた。詳しいことはわからないが、青年の背景をみるとこれは大いに考えられる。

シャロンが本当にガザから入植地(植民地)を撤去しようとしているということで、情勢を混乱させるために反対派のユダヤ右派が似たようなことを起こす可能性もなくはない。そのときに犠牲になるのは、このようにイスラエルの中のパレスチナ人や占領地のパレスチナ人になるという不安も高まっている。

殺された4人のうち、学生の2人は姉妹で、1人はハイファ大の学生だったという知らせも来ている。

[追加]

・イスラエル北部(アラブ系住民が多い)には、多くの治安部隊が配備された。暴動などを警戒してのもの。また、エルサレムのアル・アクサーモスク周辺は厳重警備になっている。

・乱射で殺されたのはムスリム2名に、クリスチャン2名。犯行を行った青年の母親が「息子は危険なことをする可能性があるので、銃をとりあげてくれ」とイスラエル軍にコンタクトを取っていたこともわかった。( "Israel braces for Arab backlash after soldier's deadly rampage" より。犠牲者の家族たちが悲しむ写真も。)

・犯人の青年の名前は正しくは"Eden Natan-Zada"(エデン・ナタン・ザーダ)だったようだ(違う名前が報じられていた)。

・この青年が「テロリスト」かどうかを巡って、ハアレツ紙のコメント欄で議論が起きている: "Analysis: The Jewish gunman fit the potential terrorist profile"

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