2005.01.26

何でも反ユダヤ主義──世界ユダヤ人会議のキャンペーン

パレスチナのことに関心を持つようになって、良かったことのひとつに「世界には様々なユダヤ人がいる」ことを知ったということがある。イスラエル人も然り。みながイスラエルの政策を支持し、シオニズムを信奉しているわけではない。なかにはそれらに反対し、行動を続けている人々もいる。

そのようなユダヤ人の中でも「折り紙付き」と言えるのが、米国のノーマン・フィンケルスタイン。今、私はフィンケルスタインの『ホロコースト産業─同胞の苦しみを「売り物」にするユダヤ人エリートたち』(三交社)という本を読んでいる。

内容は簡単に言えば、米国のユダヤ人エリートたちが米国政権の後押しを受けながら、ホロコーストをネタにして、ヨーロッパ(ここで中心に書かれているのはスイスの銀行)から不当な大金を支払わせ、それを本当の犠牲者に配当するより、自らの団体などで使っているという告発である。

原註が山のようにつけられ、細かい数字やディティールに満ちたこの本の内容を全部検証することはできないが、大筋から言って、事実にそれほどの歪曲はなさそうだ。それは第一線のホロコースト研究者が支持をしていることからもわかる。

たとえば、スイスの銀行は、ホロコースト以前にユダヤ人が預けた資産についての調査が終わる前に、政治的圧力がかけられ、12億5000万ドルを支払うことになったが、実際には調査の結果、せいぜい6000万ドルくらいしか資産はなかったとなっている。それにくらべ、米国やイスラエル*に犠牲になったユダヤ人から預けられていた資産は調査もされていなければ、要求もされていない。このようなことが次々と描かれていて、寒気が走る内容になっている。

(*イスラエルに…これについては註として後述)

両親がワルシャワ・ゲットーとナチ強制収容所からの生還者だったというこの著者は、イスラエルへの政策とホロコーストを利用するユダヤ人への容赦ない批判に立っているため、「自虐的ユダヤ人」と罵られ、さらには正真正銘ユダヤ人嫌いの人々や修正論者から"仲間のように扱われる"という不幸な状態に陥っている。(ちゃんと読めば、そうじゃないってわかるのに)

この著者はホロコーストについて、とても大事なことを書いている。

ある時期からユダヤ主義とシオニズムにとってホロコーストは「無条件に唯一無二の歴史的事件」となったことを述べ(──エリ・ヴィーゼル曰く「ホロコーストの普遍性はその唯一性にある」)、この唯一性がイスラエルやユダヤ人に他民族に対する「請求権」を与える根源になってしまっているが、それ自体が間違いなのだと筆者は何度も書きつける。

「ユダヤ人以外の苦しみに心を開くべき時がとっくに来ている──それが、私が母から受け継いだ最大の教えである。母からは、比べるな、という言葉を一度も聞いたことがない。母はつねに比べていた。もちろん歴史的な区別は必要だ。しかし、「自分たち」の苦しみと「彼ら」の苦しみを道徳的に区別することは、それ自体が道徳のねじ曲げなのだ。「惨めな人々が二組いるときに両者を比較して、一方が他方よりも幸せだと言うことはできない」とプラトンが言ったのは人道的な面からだった。アフリカ系アメリカ人やヴェトナム人やパレスティナ人の苦しみを前にしたとき、母の信条はつねに変わらなかった──私たち全員がホロコーストの犠牲者なのだ。」(序論より)*太字は引用者による

ここで書かれた「比べるな」というのは、ホロコーストを唯一のものとするような態度であり、「比べる」ことで、ホロコーストの惨禍を他の人々の苦しみと繋げていくという考え方は、思ってもみないものだった。

これを読んで思ったのは、通常「反ユダヤ主義」と言われているものも、ことさら「ユダヤ」を冠さなくとも、「レイシズム」として語ることはできないのだろうかという疑問だった。

ところが、現実は「反ユダヤ主義」の解釈をさらに押し広げようとする方向に向かっている。

世界ユダヤ人会議(WJC。上記の『ホロコースト産業』に「あこぎな金集め集団」として登場する、ユダヤ社会のエリートが牛耳っている団体)が、「反ユダヤ主義」をさらに拡大解釈して、国連諸機関や人権団体などを糾弾する姿勢を深めているというレポートが発表された。

"Speakers at the seminar mentioned above charged variously that the UN is "the leading global purveyor of anti-Semitism", that it "demonizes and de-legitimizes the Jewish people" and "deifies the Palestinians", and demanded that it "make fundamental changes". "

Deconstructing the WJC campaign for a UN resolution on anti-Semitism より

国連が「地球的な反ユダヤ主義の御用商人で、ユダヤ人を悪魔化し、パレスチナ人を賛美している」って?それにイスラエルの指導者への中傷も反ユダヤ主義であるらしい……。

恐ろしいことに世界ユダヤ人会議は米国政府とのつながりは強力で、お金もたんまり持っている──ホロコースト補償で集められた資金は110億ドル以上だ…(当団体発表)。ロビイングをする余裕はありまくり。

(このレポートは詳細に読めていないが、本当は訳して届けたい内容…)

このような流れのせいなのか、昨日、アウシュヴィッツ解放60年を記念して、国連総会で初の特別会合が行われ、イスラエル人ノーベル平和賞受賞者のエリ・ヴィーゼルなどが演説を行っている。

「国連の加盟国は将来の大量殺害を阻止する意思があるかどうか問われている」(エリ・ヴィーゼルの言葉。讀賣新聞より)

「将来」のではなく、「現在」の虐殺をとめようよ!

(アラブ諸国は反発して出席しなかったところもあったそうな。また、米国を代表して演説したウォルフォウィッツ国防副長官は、ブッシュ大統領の2期目の就任演説を引きながら圧政の打倒と自由の拡大を訴えたらしい。なんて「凄い」アウシュヴィッツ解放記念の日。。。)


*註「イスラエルに犠牲になったユダヤ人から預けられていた資産」…がよくわからないという質問をいただいた。イスラエル建国前にパレスチナのユダヤ人金融機関に対して、欧州のユダヤ人から預けられていた資産と考えたらいいのだと思う。詳しい実態はわからないが、建国後はイスラエルの銀行に引き継がれたようだ。『ホロコースト産業』では次のような記述がある。

「…バウアーも、イスラエルの銀行家たちが1948年の独立戦争後に「ユダヤ人の休眠口座リストの公表を拒否した」と述べているし、最近でも英紙『フィナンシャル・タイムズ』が、「独立委員会を設置してホロコースト生還者の保有していた資産額と休眠口座数を確認し、所有者の特定方法を確立せよという圧力があるが、ヨーロッパ諸国と違い、イスラエルの銀行やシオニスト組織はこれに抵抗していると報じた(ヨーロッパのユダヤ人はイギリスの委任統治時代、シオニズム事業の支援ないし将来の移民に備える目的で、パレスティナで小区画の土地を購入し、銀行口座を開設していた)。」(p.118)

*『ホロコースト産業─同胞の苦しみを「売り物」にするユダヤ人エリートたち』ノーマン・フィンケルスタイン(三交社)ISBN: 4879191582 ; (2004/12)

"The Holocaust Industry" Reflections on the Exploitation of Jewish Suffering / Norman.G.Finkelstein

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